2025年10月23日、南阿蘇中学校(元長陽中学校)の合唱コンクールの審査に伺いました。
この地域は2016年の熊本地震によって大きな痛手を受けたところです。
熊本市方面から南阿蘇に行く時に阿蘇大橋を通るのですが、熊本地震によって崩落し、2021年に新阿蘇大橋が開通しました。
実は私は今回初めて、新しい阿蘇大橋を渡りました。
さて、南阿蘇中学校に着き、校長室でとてもびっくりしたお話を聞きました。
それは、南阿蘇中学校の1年から3年まで全部の教室に電子ピアノがあるとのこと!
それは熊本地震の後、世界的な指揮者である佐渡裕さんなど有名な音楽家の方たちの支援によるものだそうです。
吹奏楽の楽器も新しいものばかり。
地震で被災した中学生達が楽しく音楽がやれるようにという願いがこもっているのですね!
すごいことです!!
それでは、南阿蘇中の皆さんの合唱を聴いた感想を学年ごとにお伝えしていきます。
2年生の合唱を聴いて
まずは2年生の発表でした。
2年生の課題曲は「HEIWAの鐘」です。
この曲は平和を願う沖縄の人々の思いが熱く語られていて、中学生にとても人気の曲です。
特にサビの部分が胸を打ちます。
拳(こぶし)をひろげてつなぎゆく 心はひとつになれるさ
平和の鐘は君の胸に響くよ」
「怒りで握りしめた拳を開いて、手をつなごう!そしたら奇跡が起きるよ!」と言っているんですね!
でも、課題曲がこれだと知り、私は「あー(汗)」という気持ちに。
と言うのは、この曲は出だしから3声に分かれていて、テノールがソプラノにつられちゃうことが多いのです。(汗)
しかし!
南阿蘇中の2年生2学級はどちらのクラスのテノールも、ここを正確な音程で歌いました。
わぁー、びっくり!!
これには感心しました!
そして2クラスとも、課題曲も自由曲も、言葉がはっきりと聞こえました!
自由曲は自分達が選んだ歌、その歌を大事に練習してきたことが伝わりました。
少し残念だったのは、アルトパートが小さかったことです。
1年生の合唱を聴いて
次は1年生の合唱です。
課題曲は「マイ バラード」。
これも人気のある合唱曲ですが、私はまた「あー(汗)」という気持ちに。
それは、この曲には3連符が出てきて、ここがなかなか正確に歌われないことが多いのです・・・。
でも南阿蘇中1年生は、リズムを正確に「マイ バラード」を歌うことができました。
1年生なのにすごいなー!と思いました。
そして2年生同様、課題曲自由曲ともに言葉がしっかり伝わりました。
これはとても大事なことですよね。
3年生の合唱を聴いて
最後は3年生です。
3年生の課題曲は「群青」。
多くの中学校で3年生の課題曲として歌われています。
この曲は2011年に発生した東日本大震災で大きな被害を受けた南相馬市の小高(おだか)中学校の生徒達と音楽の小田美樹先生が作ったものです。
生徒達は震災当時1年生。
それから2年が経ち、その子達が中学校を卒業する時に、遠くに行ってしまった友を想い、共に過ごした日々を懐かしみ、それでも希望を胸に前に進もうとしている気持ちを歌っています。
3年生は3学級でしたが、どのクラスの「群青」も気持ちがこもっていて、とても感動的でした。
ただ、出だしの「ああ」が暗く聞こえたのが、とてももったいないと思いました。
この曲はこんな言葉で始まっています。
ああ あの町で生まれて 君と出会い
私は、この曲は最初の「ああ」をどう歌うかがとても大事なことだと思います。
「ああ」というのは感動のことばですよね。
前奏を聴きながら、この「ああ」を歌い出すまでに、共に過ごした友達のことやこれから旅立つ自分達のことを思い描くことが大事です。
そしてその感動を「ああ」という言葉に込めます。
楽譜ではmp(メゾピアノ)という強弱記号がついていますが、それは気にしなくてもいいです。
ここは音程が低く、斉唱ですからそんなに大きくは出せません。(笑)
この出だしを感動を持って明るい発声で歌うことで、聴く側の心にもさらに入っていくのではないかと思います。
そして、だんだんだんだん盛り上がり、最後にまた斉唱になります。
また 会おう 群青の町で
ここを、とても丁寧に歌ってくれて感動しました。
講評でお伝えしたこと
どの学級も一生懸命で、一体感のある合唱を聴くことができました。
そんな南阿蘇中学校の皆さんに、私から以下の3点をお伝えしました。
ことばの頭をしっかりと

どのクラスも言葉がはっきり聞こえたのがとても印象的でした。
さらに、ことばの頭を意識して強く歌うと、それだけで何倍も上手に聞こえます。
例えば、1年生の課題曲「マイ バラード」だったら、「みんなでうたおう こころをひとつにして」の「み」と「う」と「こ」と「ひ」です。
今度練習する時に、ぜひやってみてくださいね。
明るい発声で喉を開けて歌おう

悲しい歌を歌う時にも、基本的に明るい発声で歌いましょう。
そのためには、喉から声を出そうとするのではなくて、お腹からやってきた息を上顎のてっぺんに当てます。
ホールや体育館や教会の天井は高いですよね。
そこに声が当たるので、よく響きます。
ですから私たちも口の中をホールと思って、天井を高くしてそこに声を当てましょう。
そのためには口を縦に開けて喉を開き、ほっぺたも上げて笑顔にします。
さらに目もしっかり開けましょう!
そして目から、あるいは頭から声を出すイメージで歌います。
そうしたら明るい歌声が響くようになると思います。
やってみてくださいね!
他のパートの声を聴いて歌おう

今回の合唱を聴いて、アルトパートが小さかったのがもったいなかったなと思いました。
アルトはソプラノとテノールに挟まれていて、音が取りにくいですよね。
練習も本当に大変です。
時々、つられないように自分の耳を塞いで歌う姿を見かけますが、これではせっかくのハーモニーを感じることができません。(汗)
アルトがいるから素敵なハーモニーを作ることができるのです。
アルトはあんパンのあん、ハンバーガーのハンバーグ、お部屋の空間です。
あんパンもハンバーガーも、真ん中に具があるからおいしいですよね!
テノールはあんパンやハンバーガーの下のパン、お部屋の床です。
これがないと全てが落っこちちゃいます(笑)
ソプラノは上のパンやお部屋の天井、これがあるからあんパンやハンバーガーだって分かります。
たまには上に飾りがあることもあります。
ソプラノも時々飾りを入れて、その曲をさらに素敵にしてくれますね。
このようにどのパートもなくてはならない大切な存在です。
ですから、他のパートをよく聴いて、その中で自分の音が歌えるようになって欲しいと思います。
感動をありがとうございました!

南阿蘇中学校の皆さんの合唱は、どのクラスも本当に一生懸命で一体感がありました。
そして、それぞれの曲の素晴らしさを感じることができました。
また、熊本地震後に世界で活躍される音楽家の方達の支援で、全学級に電子ピアノがあるということにも驚きました。
その素晴らしい環境の中で、これからも心を合わせて歌っていって欲しいと思います。
3月の卒業式で、体育館に感動の歌声が響くことを願っています。
ありがとうございました♡


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